出会い系サイトに、百発百中はない

その日も、明け方まで仕事に追われていた。
ぶっ通しで20時間以上も机に齧りついていたせいか、腰が痛い。
(やっぱり、歳には勝てないな)
独り言ちながら、キッチンに向かい、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出す。プルを取り、ゴクゴクと黄色い液体を喉に流し込んだ。
(旨いぃ!でも・・・)
そう、仕事が一段落すると、私は必ず新しい女の柔肌に触れたくなるのだ。男の性というものか。その朝も、女の温もりが欲しくて、出会い系サイト「イククル」にアクセスしていた。過去にも何度かお世話になっている、私にとっては有り難いサイトである。

その日も、サイト上には上は50代前半から下は20代前半まで様々な女性の写真が載せられていた。当然だが、髪の長さもスタイルも、顔や鼻や口の大きさや形も、千差万別である。タブレットのスクリーン上をスワイプしながら、好みの女性を探し始めた。
探し始めて5分が過ぎた頃、目の覚めるような美人の顔写真に目が留まった。早速、プロフィールを覗いてみる。年齢は40代前半で、サラリーマンの夫がいて、高校生と中学生の子供が二人いると記されていた。肩まで伸びた黒髪に、どこか上品さを漂わせた淑女のように見えた。
(ダメ元で、アタックしてみようか・・)
そう考えるよりも早く、手が勝手にメッセージを送信していた(^◇^)
(50の坂を越えて、本当にお盛んだことだ)
やや自嘲気味に残ったビールを喉に流し込むと、メッセージが返信されてきた(*^^)v
「初めまして、○○と申します。今日は夕方4時頃までだったら時間を取れるのですが、ご都合はどうでしょうか?」
丁寧な言葉遣いに才色兼備の匂いを感じた私は、一も二もなく返信した。
「初めまして。▼▼です。もちろん、大丈夫ですよ」
2分もしない内に返信がきた。
「それじゃ、街中で宜しいでしょうか?」
「ええ。構いませんよ。天気がいいので、大通公園で会うのはどうでしょうか?」
今度は1分でメッセージが返ってくる。
「いいですよ。じゃ、大通公園のテレビ塔前でどうですか?」
「OKです。じゃ、11時でいいですか?」
「大丈夫です。じゃ、これから支度をして出ますので・・お会いできることを楽しみにしています」

 

もう、ルンルン気分だった。
急いでシャワールームに飛び込み、汗を流してから、髭剃りを当て、アフターシェービングローションをつけながら、身に着けるものを選んだ。色々迷った挙句、濃紺のポロシャツに白のパンツを合わせて外出することにした。

夏の強い陽射しが、地下鉄△△駅に続く坂道のアスファルトの路面を照らしていた。濃茶のローファーの薄底から、熱さが伝わってくる。
大通公園駅は、△△駅から6つ目の駅で、12分もあれば到着する。大通公園駅に到着するや、人混みをかき分け、改札口に続く階段を一気に駆け上り、息せき切って地上に出た。
待ち合わせ場所のテレビ塔が目の前に、大きく濃い影を作って聳えている。小走りにテレビ塔の方角に歩を進めながら、必死に○○さんらしい人影を探すが、見当たらない。
(騙されたか・・)
テレビ塔の真ん前までやって来た。それらしき女性の姿はない。
(やっぱり・・)
暫くその場で待っていたが、誰も来る気配がなかったので、仕方なく帰ろうとすると、一人の女性が声をかけてきた。安っぽい赤色のワンピースに丸ぽちゃ顔の女性が、やや下卑た笑みを口の端に浮かべている。
「▼▼さんですか?」
「えぇ、そうですけど・・」
一瞬、素知らぬ振りをしようと思ったが、自分の顔や服装の特徴は来る前にメールで伝えていたから、今更、逃げようがなかった。
「○○さん、ですかぁ?」
恐る恐る聞いてみた。コクリと頷く女性を見て、完全に切れてしまった。

もうお茶をすることも、軽食を取ることもせず、私たちはラブホテルへ真っ直ぐに向かった。
無言でエレベーターに乗り、無人の廊下を部屋まで歩き、部屋に入ってからは、感情のこもらないセックスのルーチンワークを彼女に施した。耳たぶを噛み、乳房をまさぐり、膣を指で掻き回し、首筋を舐める。射精の瞬間、一瞬の恍惚を味わったあと、泥沼のような疲労を全身に感じた。そして、大きな後悔の念に襲われた。

何か言いたげに口をもごもごさせている女性を無視して、部屋を出た。無人の廊下をエレベーターまで歩き、無言で狭い箱の中に乗り込むと、一階まで降りて、無人のロビーを抜けて外に出た。
「じゃ、今日はありがとう」
「愉しかった・・」

空を見上げると、真夏の太陽が西に傾き始めていた。
(出会い系サイトに、百発百中はないな)
そんな思いを抱きながら、彼女とは反対方向に踵を返し、ホテルを後にした。